Ryuichi Sakamoto - "andata" (piano/organ, violin ver.) arranged by Yuri Umemoto and Akiko Yamane

"andata" (piano/organ, violin ver.) arranged by Yuri Umemoto and Akiko Yamane under the official approval of Ryuichi Sakamoto.

(c) テレビ朝日
(c) テレビ朝日

梅本佑利・山根明季子 編曲

- 坂本龍一「andata」(2017)(ヴァイオリン、ピアノとパイプオルガンのための編曲版, 2023)

 

 「andata」は、坂本龍一(以下敬称略)の20枚目のオリジナル・アルバム「async」(2017)に収録されたレコーディング作品である。

 

 山根明季子と梅本佑利(mumyo)によって編曲された本作は、2023年、テレビ朝日「題名のない音楽会」放送2800回記念・坂本龍一特集番組のために制作され、生楽器によるコンサート作品として、坂本監修のもと、原曲にある「非同期」を新たに解釈した、大幅な編曲作業が行われた。

 収録は、東京オペラシティ・コンサートホール、タケミツメモリアルにて、角野隼斗(ピアノ・オルガン)、成田達輝(ヴァイオリン)によって演奏された。

 

 原曲では、J.S.バッハの対位法、教会音楽をモチーフとしたオルガンの音楽に、非同期、ノイズ的な環境音、電子音響が重ねられ、作者によると「教会が海の渦に巻き込まれながら水没していく様を思いうかべながら」作曲されている。

 山根と梅本によって編曲された本作では、この「非同期」のノイズを、社会に渦巻く「騒音」、「人工物」、「都市的な構造物」と捉え、西洋の12音階を主な要素とした、新たなヴァイオリンのためのパートが作曲された。このパートは、もう一方のオルガンパート(原曲)と全く異なるテンポで同時に演奏され、各奏者は互いにタイミングを合わせることなく、異なる時間軸が並行して進行する。

 こうした、異なる時間軸が同時に進行する作曲法は、これまで、山根と梅本の作品によく用いられてきた方法である。また、この新しいパートにみられるチップチューン的な音楽要素(ビビッドで電子的な長三和音のアルペジオ、無機質な長音階の連続等)は、日本でローカライズされた西洋音楽の要素として、日本のゲームサウンドや、商業音楽、都市のサウンドスケープに溶け込んでいるものである。

 坂本が1978年〜のYMO(イエローマジックオーケストラ)とその後の活動で試みた「西洋音楽」と「東洋」の考察、セルフオリエンタリズムの手法は、特に梅本の創作に大きな影響を及ぼしており、本作業では、その音楽的文脈を繋いでいる。

 

 最後に、坂本氏から本編曲に対して、「革新的」と評されたことを、恐縮ながらここに記しておきたい。

 

2023年3月 梅本佑利

 

アルバム「async」について、坂本龍一氏の発言より引用。

 

「アルバム名『async』は“asynchronization”=非同期の略になります。世の中の音楽の99%は同期しているし、人を同期させる力を持っている。同期するのは人間も含めた自然の本能だと思うのですが、今回はあえてそこに逆らう非同期的な音楽を作りたいと思いました。もともと僕は、工事や工場の音が好きで、道路工事の現場があると、立ち止まって録音したりもすることもあります。YMOのときも工場の音をドラムとしてサンプリングしたことがあります。今回のアルバムでは、そういったノイズやかつて作られた”音響彫刻”、さらには映画のセリフなど、いろいろな音も使っています。ある人にとってはただの騒音でも、僕にとっては音楽。ノイズもサウンドも人の声もすべての音が音楽なんです」- 坂本龍一(2017)

 

(GQ JAPAN - 2017年5月11日 "坂本龍一、新作『async』を語る──「いちばんわがままに作った」")